「終点のない電車がある…?」

札幌育ちの鉄道好き少年には、にわかに信じ難い情報だった。

首都圏交通網の心臓とも言えるJR山手線。
初めて乗るその電車の運行間隔の短さ、乗客の多さ、そして何より”止まらずに回り続けている”という事実は、「東京って凄いなぁ」と幼心に思わせるには十分過ぎるほどに衝撃的であった。

時は流れ、2015年12月20日。
札幌市電が既存の終点駅・西4丁目-すすきの間に新設された線路での営業運転を開始し、私達の街に「終点のない電車」が誕生。
ループ化された新たな市電を体感するべく、今回文字通り「一周」してみた。

旅のスタートは石山通駅。ここからロープウェイ入口駅、西4丁目駅を通ってすすきの駅から市内を南下する「外回り」ルートが今回の行程である。
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寒さに震えながら停留所で電車を待つ。
なんとも旅情をそそられる北国のひとコマであるが、今回はその一員となり、程なくやってきた「ポラリス」に乗車する。

ポラリスは2013年にデビューした新型底床車両。
幅広い世代の人々に優しい乗り降りのしやすい作りなのはもちろん、木の温かみを感じることができる内装や、「ミニ展望席」と名付けられた窓側席など、沿線住民のみならず観光客をも楽しませる工夫が随所に潜んでいる。

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新しくなっても急がない。
現代人が忘れかけていることをそっと教えてくれるかのうように、ポラリスはマイペースでゆっくりと進む。

車ならば15分あれば行けてしまうところを電車は30分かけて、西4丁目駅に到着。
いつの間にか超満員になっていた乗客のほとんどが、待ってましたと言わんばかりにこの駅で降りた。

ここから仕事に向かうのか、買い物に行くのか、あるいは地下鉄に乗り換えるのか…
終点ではなくなった今もなお、西4丁目駅はターミナルとしての威厳をしっかりと保っているように見えた。

新線区間へと歩を進めた電車は、今回のループ化で新設された「狸小路駅」に到着。
ここで一旦下車し、新線を外から眺めてみることとした。

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これまでの線路と違う「サイドリザベーション」という方式を採用した新線は、歩道から直接の乗車が可能になっている。
そこに付随する駅舎も既存の物とは似ても似つかぬ先進的なデザインで、ここからも市電の新たな一面を見て取ることができる。
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後続の旧型車両・240系に乗り、市電一周旅を再開。
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この車両が作られたのは1960年らしい。先ほど乗ったポラリスの50年以上先輩である。

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この車内風景に得も言われぬ安心感を覚えてしまうのは、札幌市民に刻み込まれたDNAの自然な反応なのだろう。

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市電のループ化は、札幌に新たな車窓も生み出した。

西4丁目駅やすすきの駅に向かう電車を「上り列車」とするならば、すすきの駅から南下するこの「下り列車」の乗客は、沿線住民と思しき人々がほとんどを占める。
新型車両ポラリスには観光客を意識した部分も数多く見受けられたが、やはりメインのユーザーは地元住民なのだ。
意見は様々あっただろうが、一時検討された市電廃止を撤回しただけではなく、住民の足としてのさらなる利便性を追求してループ化に取り組んだ札幌市の判断は正しかったと思う。

そんなことを考えながら電車に揺られること約30分。
スタート地点の石山通駅に戻ってきた。

西4丁目駅とすすきの駅。歩いても5分ほどの、たかが400メートル。
されど、この400メートルが繋がり、ループ化が実現したことで乗客の利便性は確実に向上している。一周してみて、そう確信した。

私が子供のときには札幌になかった「終点のない電車」は、これから札幌で育つ鉄道好き少年たちには当たり前の光景となった。
彼らだけではなく、全ての札幌市民が我が街の誇りと思えるこの電車が、これからずっと”終わりのない旅”を続けてくれることを願ってやまない。