JR北海道の札幌-帯広間の臨時特急+代行バスに乗ってみた

―上野発の夜行列車おりた時から 青森駅は雪の中
北へ帰る人の群れは誰も無口で 海鳴りだけをきいている ―

かの有名な「津軽海峡・冬景色」の冒頭に歌われているように、かつて青函トンネルが存在しなかった時代、鉄路で北を目指す人々は青森で「青函連絡船」と名付けられた船に乗り換え、海を渡った。
東京から長時間かけて辿り着いた本州の最北端。ようやく旅程も折り返しというところで慣れぬ雪と寒さに襲われようものなら、言葉を発することさえ億劫になってしまうのも頷ける。
それに比べて鉄道網が全国に整備された現在では、北は北海道から南は九州まで、行こうと思えばどこへでも列車のみで旅することも可能になった。しかし、それも”線路が繋がっていれば”の話である。

8月に連続して日本列島を襲った台風は、北海道にも大きな爪痕を残した。
中でも大打撃だったのは、JR北海道の橋梁・路盤流出である。報道された写真は想像を絶するもので、衝撃的だった。

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台風被害から2ヶ月ほど経った今(10月下旬)、関係者の尽力のおかげで多くの路線が復旧したが、札幌-帯広・釧路を結ぶ「スーパーとかち」「スーパーおおぞら」が走る根室本線のトマム-帯広間は被害が特に大きく、未だに全線運転再開の目処は立っていない。
そのため、JR北海道では不通区間をバスでの代行に切り替えて、運転を行っている。
鉄道から他の交通機関に乗り換えて、目的地へ向かう…とは、どこか「津軽海峡・冬景色」的である。
今回そんな臨時特急と代行バスに、札幌から帯広まで乗ってみた。


10月24日 月曜日、午前7時半。
駅構内に張りつめる凛とした空気と、それを彩る白い息。北国の長く、厳しい冬は確実にすぐそこまで迫っている。厚手のコートを身にまとった通勤・通学の人々が、寒さから逃れるように各々の目的地へと急ぐ。

私はその流れに逆らい、みどりの窓口に向かった。
「帯広まで、片道お願いします」

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いつもなら便名と空席状況が表示される「帯広・釧路方面」の画面に映し出された特別なお知らせの文言を横目に見つつ、係員さんにざっくりとそう告げる。

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程なくして手渡されたきっぷは、札幌から帯広までの「乗車券」と、札幌からトマムまでの「自由席特急券」の2枚。
札幌からトマムまでが特急で、トマムから帯広までがバスによる代行輸送なので、バス区間は乗車券運賃のみで乗ることが出来る、というわけだ。

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7時54分の発車までにまだ時間があるので、久しぶりに7番ホームの「弁菜亭」に行ってみることにした。
この「弁菜亭」はいわゆる”立ち食いそば”のお店。行ったことはないけど知っている、という方も大勢いるだろう。

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290円のかけそばを注文して、30秒足らずでの提供。日本に古くから存在する「真のファストフード」はその優しい出汁の香りで、慌ただしく寒い冬の朝にひとときの安らぎを与えてくれる。

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そばモーニングを楽しんだ後、隣のホームに移動して、臨時特急に乗り込む。

ここで、今回の臨時特急についての基本的な情報をまとめておこう。

・運行区間は 札幌⇔【臨時特急】⇔トマム⇔【代行バス】⇔帯広⇔【臨時快速】⇔釧路
・両方向に1日3便ずつ運行
・札幌-トマム間は「臨時特急」のため特急料金が必要だが、トマムから先釧路までは「代行バス」および「臨時快速」のため、運賃のみで乗車可能
・車両編成はいつもと同じ6両だが、一般的な「指定席」は存在せず、6両のうち5両が自由席車両として運用。残りの1両、設備の良いグリーン車両がグリーン券不要で、指定席料金のみで乗車可能になる。発売は車内のみ(みどりの窓口での指定、予約不可)

全て自由席だが、今回平日に乗った感じでは空席も多く、満員で着席できないという心配はあまりなさそうだ。
札幌-帯広間を走る高速バスが朝から晩まで、平日休日問わず満席なのを見ると、相当数の利用客が運賃の安い高速バスに流れていることが想像できる。

7時54分、時刻通り列車は札幌駅を出発。
リクライニングの椅子を倒した、快適な特急車両からホームの通勤・通学客を眺めるのは、自分だけが非日常空間にいるようで、ちょっとした優越感に浸ることが出来る。

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札幌駅を出発してからトマム駅までの途中の停車駅はスーパーとかちに準じており、この間は臨時特急だからといって特別なことはほとんどない。

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この日特別だったことといえば、トンネルを何本も超えるうちに車窓がだんだんと雪国と化していく、いわゆる「川端康成現象」が発生していたことくらいだろうか。(そんなものはない)

9時37分、ほぼ時刻表通りにトマム駅に到着。
ここから代行バスへの乗り換えとなる。

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「雪でホーム上が大変滑りやすくなっております」というアナウンスに、気を引き締めてホームに降り立つ。

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札幌発の臨時特急降りたときからトマム駅は雪の中だったが、帯広へ帰る人の群れはなんだか楽しそうで、全然無口じゃなかったことをご報告いたします。

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バスは3台に分乗。案内に回った車掌さんと係の方の誘導、そして乗客全員の協力でスムーズに乗り換えが完了し、予定通り9時55分にトマム駅を出発することができた。

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帯広駅までは、トマムICから高速道路でノンストップ運行。
スーパーとかちの途中停車駅「新得」「十勝清水」「芽室」には停まらないため、ご注意いただきたい。(札幌駅14時16分発の最終便に限り、トマム駅から十勝清水と新得に向かう別便のバスが追加で設定されている。詳しくはJR北海道のホームページ参照)

11時05分、高速道路が空いていたこともあり、予定より20分も早く帯広駅に到着。
列車では早着はあり得ないので、これはバス利用の特権といったところか。

吹きすさぶ寒風と柔らかな日差しの入り交じる帯広駅で、今回の旅は無事終了と相成った。

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ちなみにここから先、釧路までは再び臨時快速(車両は特急と同じ)に乗り、残り1時間半ほどの旅となる。ご参考までに。


今回、臨時特急と代行バスに乗ってみた結果、および感想をまとめておく。

・出発が7時54分、到着が11時05分だったので、今回の所要時間は3時間10分ほど。一部バスを利用するため、良くも悪くも道路状況に左右されるという性質はあるが、上手くいけば通常のスーパーとかちとあまり変わらない所要時間で移動が可能。(帯広から釧路までは再び鉄路なので、到着が予定より早くなることは無い)
・特急車両での移動は高速バスのそれと比べると、やはり快適である。この価値こそ、高速バスの運賃との差額以上に意味を持つものだと改めて実感した。
・一方で高速バスが軒並み満席になる中、一部代行バス運行となったJRにここまで空席が目立つのは、運賃や所要時間、乗り換えの手間といった要素よりも、「臨時便の運行を行っている」というPR不足であるように感じた。報道でも「スーパーとかち、スーパーおおぞらが運休している」というところで情報が止まってしまっているものが多い。
・今回の臨時便設定に関して札幌発と釧路発、どちらの最初の便に乗っても終点到着時刻が13時を過ぎてしまうので、その点での利便性の低さは強く感じた。
・ただ、上記の到着時間の問題さえクリアできれば、個人的には今後もJR利用を選択したい。少しでも運賃収入増やすことが根室本線の復旧、そしてJR北海道のためにもなると信じている。

一日も早い根室本線の復旧と、スーパーとかち・スーパーおおぞらの運転再開を願っています。